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山口地方裁判所 昭和33年(行)5号 判決 1960年3月31日

原告 防府土木株式会社

被告 防府税務署長・国

訴訟代理人(国) 加藤宏 外三名

主文

被告国に対する訴を却下する。

被告防府税務署長に対する請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、被告両名に対し、「防府税務署長が昭和三十三年三月三十一日附をもつて原告に対してなした昭和二十九年分及び昭和三十年分各源泉徴収所得税の納金額を前者につき金十一万百円及び後者につき金九万四千七百五十円とする旨の告示処分は無効であることを確認する。訴訟費用は被告等の負担とする。」との判決を求め、

その請求の原因として、

一、防府税務署長は昭和三十三年三月三十一日附をもつて原告会社に対し、同会社がその代表取締役田中忠雄に対し支給すべき昭和二十九年分(同年一月一日以降同年十二月末日まで)及び昭和三十年分(同年一月一日以降同年十二月末日まで)各給与それぞれ金五十四万円についての各源泉徴収所得税の本税額を昭和二十九年分につき金十一万円及び昭和三十年分につき金九万四千七百五十円とし、該税額を納付すべき旨の源泉徴収所得税の告知処分をした。

二、然しながら、右の納税告知処分には次のような違法がある。

(1)  原告会社が訴外田中忠雄に対し支給すべき給与は毎月払で且つ当月分をその月末に支払うべき旨定められているところ、昭和二十九年分及び昭和三十年分各給与についてはいずれも右訴外人において昭和二十九年一月十二日右各給与請求権(昭和二十九年一月以降同年十二月末日まで並に昭和三十年一月以降同年十二月末日まで)を放棄したため、原告会社は右各給与を右訴外人に支給していない。従つて課税の対象たる給与所得がないから、右訴外人に納税義務はなく、従つて又原告会社においても右に対し源泉徴収義務を負担する謂はない。

(2)  仮りに然らずとするも、源泉徴収義務者の徴収義務は納税義務者の納税義務とは別個に考慮すべきものであつて、このことは所得税法第三十八条の規定に徴し明白である。即ち、右規定は給与所得の源泉徴収につき、給与所得の支払をなす者は「その給与の支払をなす際」同条所定の税額の所得税を徴収し、同条所定の日までこれを政府に納付すべき旨定め、これによれば給与所得の支払をなす者はその支払をするとき源泉徴収所得税を納税義務者から徴収すべき義務を負担とするに至るのであるから、前記の如く右給与支払の事実がない以上、源泉徴収義務を負担するものでない。

三、以上の次第によつて、いずれにせよ原告会社は源泉徴収義務を負担する謂がないから、これを負うことを前提としてなした本件納税告知処分は重大且つ明白な瑕疵を有する違法な処分であつて、当然無効であり、よつてここに被告両名に対しこれが無効なることの確認を求めるため本訴請求に及んだ次第である。

と述べ、なお原告は本件納税告知処分に対し直ちに防府税務署長に再調査の請求をなしたところ、昭和三十三年五月二十一日附をもつて再調査の請求理由なしとして棄却の決定を受けたものであるが、これに対し更に審査の請求はしていない。と附陳した

(証拠省略)

被告両名指定代理人等は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、

答弁として、

一、原告の主張事実中、防府税務署長が昭和三十三年三月三十一日附をもつて原告に対しその主張のとおりの源泉徴収所得税納税告知処分をなしたこと、右処分に対し原告が防府税務署長に対し再調査の請求をなしたところ、防府税務署長は昭和三十三年五月二十一日附をもつて棄却の決定をなしたことはいずれも認めるが、その余の事実及び原告の法律上の主張は争う。

二、原告の主張はそれ自体理由がない。

行政処分はそれが当然無効となるのは行政処分が事実上又は法律上不能に属する事項を目的としているような特別な場合を除いては、その処分に重大且つ外観上明白な瑕疵のある場合に限つて無効となるのであつて、単に違法というだけでは無効とならない。ところで本件にあつて原告の主張するところは、要するに本件納税告知処分は訴外田中忠雄が原告から受領すべき昭和二十九年及び昭和三十年分の各給与を放棄したにも拘らず、右給与支払の事実ありと誤認してなされたものであると謂うのであるが、然し仮りに原告主張のとおりの事実があり、而してこれにより本件納税告知処分が違法であるとしても、右瑕疵は外観上明白ということができない。蓋し、右は結局所得の有無(発生消滅)の問題に帰するものであるが、一般的にみて所得の有無は実体的な法律関係を綜合し、経済的な実質を考慮したうえ、法律的な価値判断を経て始めて決定される事柄であつて、単に形式乃至外観のみによつて認定し得るものでない。従つて所得の有無について判断を誤つて課税したとしても、その誤りは外観上明白といえず、課税処分を当然無効ならしめるものでない

以上のとおり本件納税告知処分は当然無効となるものでないところ、原告は国税徴収法第三十一条の三所定の審査の請求を経ないまま本訴を提起しているのであるから、原告が本訴で主張している無効確認という本来の趣旨にその取消を求める趣旨を含ませることはできないものである。

三、本件納税告知処分は違法でない。

(1)  凡そ所得税法上所得の計算に当つては所謂権利確定主義によるべきであつて、右給与所得の計算においても同様であるから、現実に給与の支払がなされたかどうかに関係なく、給与の支給期が到来すればその時における給与所得として確定すべきものであるところ、原告会社代表取締役田中忠雄が原告に対し有する昭和二十九年分及び昭和三十年分の各給与債権(金額各五十四万円)はそれぞれ当該年度経過の際に既にその支給期が到来し、これにより右各債権は確定していたものであつて、このことは右各給与債権が原告会社における昭和三十年度及び昭和三十一年度各決算書にそれぞれ未払金として計上され、且つ又訴外田中忠雄の昭和二十九年及び昭和三十年分所得税確定申告に右各給与を申告していることからも容易に窺知し得るところである。従つて右各給与が現実に訴外田中忠雄に支給されたかどうかに拘らず、右各給与債権は右のとおり確定していたものであるから、右訴外人がそれをその後の昭和三十二年八月二十七日に至つて放棄しても、原告主張の如く右訴外人に給与所得がないということはできないものであつて、寧ろ既に確定した給与債権を放棄すること自体が税法上否定さるべきものである。

(2)  而して給与債権が確定すれば、同時に給与所得に対する源泉徴収義務もその支払をなすべき者に確定すべきものであり、この点においても給与が現実に支給されたかどうかにかかわりないものであつて、所得税法第三十八条に規定せる「支払」とは単に源泉徴収所得税を現実に徴収する時期を定めたに過ぎないものである。以上の理は配当所得についての源泉徴収に関する所得税法第三十七条が、配当所得の支払をなす者、その支払の際「但しその支払の確定した日から一年を経過した日までに支払がなされないときは当該一年を経した日において」その支払うべき金額に対し同条所定の税額の所得税を徴収すべき旨(改正―昭和三十四年法律第七十九号)規定していることの趣旨に照らし明らかである。のみならず同法第三十八条に所謂「支払」とは現実に金銭の交付をする場合の外これを元本に繰り入れ預金口座に振り替える等その他当該支払の債務が消滅する一切の場合をいうのであつて、本件の場合訴外田中忠雄が前記のとおり各給与債権を放棄したことによつて原告会社が右訴外人に対する右各給与債務を免除され、且つ右債務相当額をあらためて雑収入として受け入れている事実は、所得税法第三十八条所定の「支払」に該当するものというべきである。

(3)  以上のとおり、原告会社は本件源泉徴収義務を負担すべきものであるから、本件納税告知処分は何ら違法でない。

と述べた。

(証拠省略)

理由

一、先ず被告国に対する訴の適否について判断する。

原告は、国及び防府税務署長を被告として、この両名との間で、防府税務署長が原告に対しなした後記源泉徴収所得税の納税告知処分の無効確認を求めるものであることは本件訴訟の経過に徴し明白であるが、原告の本訴請求の当否を判断するに先立ち、先ず右被告適格の点について審按するのに、凡そ原告主張のような行政処分の無効確認を求める訴において、それは一面公法上の当事者訴訟的性格を有し、従つて本来の確認の対象である権利の主体たる国を被告とすることも許されない訳ではないが、同時に同一行政処分につき当該行政処分を行つた行政庁をも被告としてその無効確認を求めている場合には如何に取り扱うべきか。いつたい重大且つ明白な瑕疵を有する無効な行政処分と単に取り消し得べき瑕疵を包含するに過ぎない行政処分とはその公定力の有無において異にするが、然しいずれも瑕疵ある行政処分の一態様であり、而してその瑕疵が無効原因にあたるか或は取消原因に過ぎないかの区別は、抽象的一般的標準としては兎も角も、具体的場合においてそれを明瞭に認識され得ない場合が少なくなく、又無効な行政処分と蝟も一応行政処分として存在し、その外観を有するのであるから、その限りにおいて行政庁はこれを有効なものとして執行する虞がある。而して一般的事例にみられる行政処分無効確認訴訟は、当該行政処分によつて生ずる終局的な権利乃至法律関係の存否の確認を対象とすると同時に、行政処分自体の違法性を攻撃してその無効なることの確認を求め、よつてもつて無効な行政処分の表見的効力(外形的拘束力)の除去を直接の目的とする点において、行政処分の取消訴訟と共通の性格を有するものというべきであるから、その被告適格についても寧ろ取消訴訟に準じ、行政事件訴訟特例法第三条の規定を類推適用して、当該行政処分を行つた行政庁を被告とし、よつて当該行政庁をしてそのなした行政処分の無効有無につき直接訴訟上の攻撃防禦の方法をつくせるのが訴訟上合理的であり、本件にあつてもその例外ではない。而して本件の場合右の行政庁は防府税務署長であつて、その行政処分は源泉徴収所得税納税告知処分であるが、防府税務署長を被告として右行政処分の無効確認を求める以上その外に更に国を被告として右行政処分の無効確認を求めるのは無用のことであつて、かかる訴は法律上の利益を欠く不適法のものである。蓋し、右行政庁を被告としたのであつても、右行政処分の効果としての権利義務の帰属主体は国であるから、実質上権利義務に影響を受けるのは被告となつた行政庁でなく、権利主体である国であるから、結果において国を被告として行政処分無効確認の訴を提起したのと何ら異らないからである。

そうすると、本訴において、防府税務署長のなした本件徴収告知処分の無効確認を求める訴は、当該行政庁である右税務署長のみを被告とすべきものであり、従つて本訴のうち国を被告とする本件納税告知処分無効確認を求める訴はその利益なく、却下すべきものである。

二、そこで、次に防府税務署長を被告とする本件納税告知処分無効確認請求の当否について判断する。

(一)  防府税務署長が昭和三十三年三月三十一日附をもつて原告会社に対し、同会社がその代表取締役田中忠雄に対し支給すべき昭和二十九年分(同年一月一日以降同年十二月末日まで)及び昭和三十年分(同年一月一日以降同年十二月末日まで)の各給与それぞれ金五十四万円について源泉徴収所得税の本税額を昭和二十九年分給与につき金十一万百円及び昭和三十年分給与につき金九万四千七百五十円とし、これを各納付すべき旨の源泉徴収所得税納税告知処分をしたことは当事者間に争がない。

(二)  よつて被告税務署長のなした右の告知処分に原告主張の違法無効原因があるかどうかについて判断する。

(1)  原告主張の無効原因(1)について。

原告は訴外田中忠雄に支給すべき昭和二十九年及び昭和三十年分給与については右訴外人が昭和二十九年一月十二日これを放棄したため、実支給なきをもつて、課税対象たる右給与所得がないから、右訴外人に納税義務がなく、従つて又原告において右に対し源泉徴収義務を負担する謂がない旨主張するので按ずるに、いつたい所得税法上課税の対象となる給与所得金額の計算については、同法第九条の規定によれば、俸給、給料、賃金、歳費、年金(但し郵便年金を除く)、恩給及び賞与など雇傭並にこれに類する原因に基く非独立的労務の提供に対する報酬たる性質を有する給与であつて、一暦年中の収入金額(収益)から同条所定の金額を控除した金額によるものとされているが、右収入金額が如何なる暦年に属するものであるかを決定するについて同法が所謂権利確定主義に拠つていると解すべきことは、同法第十条が右の収入金額をもつて「収入すべき金額」によると規定していることに徴しても明らかであり、従つて給与所得の場合、給与が現実に支払われたかどうかということは右決定の標準とならず、給与債権が具体的に確定した時において支給されるべき金額をもつて右にいう収入金額とするものと解せられるが、但し如何なる状態をもつて給与債権が確定したと目すべきかは結局課税の公平という見地からみて右所得の形態に応じてそれぞれの場合に即応した内容と限界とが与えられるべきものである。本件にあつて、訴外田中忠雄が原告会社の代表取締役として、原告会社から支給さるべき報酬は毎月払で、且つ当月分をその月末に支給すべき旨定められていることは原告の自認するところであり、次にこれと成立に争のない乙第七、八号証並に証人佐戸丈夫、同筒井禎正の各証言を綜合すると、訴外田中忠雄は原告会社の代表取締役たる地位にあつて、原告会社から右に対する役員報酬として月額金四万五千円宛を前記規則のとおり、毎月末を支給日として支払われていたこと、然し昭和二十九年及び昭和三十年(いずれも一月以降十二月まで)においては原告会社の財政状態が窮乏したため、前記規程に基き毎月その月末に支給さるべき前記役員報酬金の支払がなされず、これに対し右報酬はそれぞれ原告会社の昭和三十年度における各貸借対照表上負債項目に未払金として計上処理されていることを認めることができ、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。然らば、原告会社の訴外田中忠雄に対する昭和二十九年及び昭和三十年分各給与は、仮令その支払が現実になされずとするも、前記の各支給日到来とともに、その時において支給さるべき前記金額(月額金四万五千円)においてそれぞれその支払債務は確定しているものであつて、唯既に確定せる債務の支払が終らない状態にあつたものとみるを相当とするから、本件徴収告知処分の課税対象たる給与所得がないということはできないものである。

この点に関し原告は前記各給与については訴外田中忠雄において既に昭和二十九年一月二十九日これを放棄した旨主張するのであるが、右主張事実を認めるべき証拠は何らなく、成立に争のない乙第一号証、同第十五号証によると、訴外田中忠雄が前記各給与についてこれが放棄の意思表示をなしたのは昭和三十二年八月二十七日開催の原告会社取締役会においてであつて、これに対し右取締役会の承認を得、次いで右給与の放棄は昭和三十三年二月二十六日開催の原告会社株主総会においても承認されたことを認めることができ、他に右認定を覆えすに足る証拠はない。そうすると訴外田中忠雄が前記各給与を放棄したのは該債権が既に確定した後のことであり、従つてそれは既に確定せる給与債権を放棄したことに帰するから、前記の如き給与所得の有無に何らの影響を及ぼさないものである。

よつて、訴外田中忠雄に昭和二十九年及び昭和三十年分の給与所得なきことを前提とする原告の主張は採用し難い。

(2)  原告主張無効原因(2)について。

次に原告は訴外田中忠雄に支給すべき昭和二十九年及び昭和三十年分給与につきその支払をしていないから、これにつき源泉徴収義務がない旨主張するので按ずるのにもとより給与所得についての源泉徴収義務の存否は給与所得者の納税義務の存否(給与所得の有無)と別個に考慮すべきであつて、それは所得税法第三十八条の問題である。而して同条には給与所得についての源泉徴収に関し、給与所得の支払をなす者は「その支払をなす際に」その支払を受ける者(納税義務者)から同条所定の納税額を徴収してこれを政府に納付すべき旨規定され、これによれば給与所得についての源泉徴収義務は給与所得の支払をなす者がその支払をなすべきときに成立するものでなくて、現実にその支払をなすときに成立するものであるから、右支払が現実に行われなければ、その支払うべき者は納税義務者に対する関係において納税義務者か所定の税額を徴収し得る権限なく、他方国に対する関係においてこれを徴収のうえ国庫に納付すべき義務を負担するものでないと解せられるから、右支払事実がないのに拘らずこれがあることを前提としてなした源泉徴収所得税納税告知処分であれば、該告知処分は違法であり、而もその瑕疵は重大であるといわなければならないけれども、然し凡そ行政処分が無効であるというには、該処分に内在する瑕疵が重大であることの外に、且つその重大なる瑕疵あることが外観上明白であることを必要とするのであつて、その瑕疵の存在が容易に判明せず、権限ある行政庁の認定を俟つて始めて明らかとなるような場合には法律上当然無効となし得ないものである。然るに本件にあつて成立に争のない乙第一号証、同第七、八号証、同第十五号証並に証人筒井禎正の証言によると、原告会社の昭和三十年及び昭和三十一年度各貸借対照表上には田中忠雄未払給与名目で前者につき金八十一万円、後者につき金百四十四万円が未払金科目に計上されており、又原告会社の昭和三十二年八月二十七日附取締役会議事録には、訴外田中忠雄が原告会社に対し有する昭和二十八年以降昭和三十年十二月末日までの給与債権を放棄する旨意思表示をなし、右取締役会はこれを承認した旨記載せられ、次いで昭和三十三年二月二十六日附原告会社株主総会議事録には前記債権放棄を承認可決した旨記載せられており、更に原告は防府税務署係員に対し前記未払給与の放棄につき税務の取り扱い如何を問い合わせていることが認められ、以上認定の事実だけをもつて考えるならば、被告税務署長としては前記給与の支払事実の有無につき一応容易に知り得べき事情にあつたものと考えられるかも知れないが、然し、いつたい給与所得についての源泉徴収義務成立の要件である給与の支払とは、もとより原因の如何を問わず当該支払債務が消滅する一切の場合を含むと解することはできないが、必ずしも給与名義において現金を交付する場合にのみ限られず、名目の如何を問わず実質的に判断し社会通念上右現金の授受と同等の経済的利益乃至価値あるものと認められるものの授受ある場合をも含むものと解すべきところ、前記認定の事実に成立に争のない乙第五、第六号証並に証人筒井禎正の証言を綜合すると、原告会社の昭和二十九年及び昭和三十年度における株主総数十名、総株式数二万二百株のうち代表取締役田中忠雄の親族は同訴外人を含めて五名、その保有株式数は計一万一千四百株に及び、又原告会社の収入金となるべき請負工事代金を右訴外人において領得しこれを自己の生活費に費消したこともあつて、右田中忠雄の個人事業的色彩が濃厚であることが認められ、かかる事情をも併せ考慮すると、前記の如き意味における給与支払事実の有無は外観上誰れでもが容易に判断認識し得る事柄でないと認むべきである。

然らば仮令原告が主張するような瑕疵が存在したとしても、以上のとおりその瑕疵は被告税務署長のなした本件納税告知処分を無効ならしめる程外観上明白なものということはできず、従つてその他の点について判断するまでもなく、原告の主張は採用し難い。

三、以上の次第によつて、原告の被告国に対する本訴は不適法としてこれを却下し、次いで原告の被告税務署長に対する本訴請求は理由がないから棄却すべく、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟特例法第一条、民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 菅納新太郎 松本保三 田辺康次)

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